大判例

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東京高等裁判所 昭和56年(ネ)1943号 判決

第一審原告

高橋宏幸

高橋雪子

右両名訴訟代理人

馬上融

鳴尾節夫

城崎雅彦

弓仲忠昭

榎本武光

第一審被告

東京都

右代表者東京都知事

鈴木俊一

右指定代理人

半田良樹

外一名

第一審被告

右代表者法務大臣

坂田道太

右指定代理人

平賀俊明

外一名

主文

一  第一審原告らの本件控訴を棄却する。

二  第一審原告らが当審で拡張した請求を棄却する。

三  第一審被告東京都の本件控訴を棄却する。

四  第一審被告国の本件控訴を棄却する。

五  昭和五六年(ネ)第一九四三号事件控訴費用は第一審原告らの負担、同年(ネ)第一八八八号事件控訴費用は第一審被告東京都の負担、同年(ネ)第一八九四号事件控訴費用は第一審被告国の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  昭和五六年(ネ)第一九四三号事件

1  第一審原告ら

(一) 原判決中第一審原告ら敗訴部分を取消す。

(二) 第一審被告らは各自第一審原告らそれぞれに対し各金二〇三七万六〇二二円及びこれに対する昭和五〇年六月五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(三) 訴訟費用は第一、第二審とも第一審被告らの負担とする。

(四) 仮執行宣言。

2  第一審被告ら

第一審原告らの本件控訴を棄却する。

二  昭和五六年(ネ)第一八八八号事件

1  第一審被告東京都

(一) 原判決中第一審被告東京都の敗訴部分を取消す。

(二) 第一審原告らの第一審被告東京都に対する請求を棄却する。

(三) 訴訟費用は第一、第二審とも第一審原告らの負担とする。

2  第一審原告ら

第一審被告東京都の本件控訴を棄却する。

三  昭和五六年(ネ)第一八九四号事件

1  第一審被告国

(一) 原判決中第一審被告国の敗訴部分を取消す。

(二) 第一審原告らの第一審被告国に対する請求を棄却する。

(三) 訴訟費用は第一、第二審とも第一審原告らの負担とする。

第二  主張

当事者の主張は、原判決事実欄の「第二 当事者の主張」に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

第三  証拠〈省略〉

理由

一当裁判所は第一審原告らの第一審被告らに対する本訴請求は、原判決が認容した限度において正当としてこれを認容し、その余(第一審原告らが当審において拡張した部分を含む。)は失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決一七丁表七行目から三七丁表三行目までに記載されているところと同一であるからここにこれを引用する。

1  原判決一七丁(以下、丁数はすべて「原判決」のそれを示す。)裏末行の「同第四号証の三、」の後に、「同第八号証の一、二、」を加える。

2  二〇丁裏二行目の「これらの建物の敷地は、」から七行目末尾までを次のとおり改める。

「これらの建物の敷地は、管理用通路面から約1.75メートルの段差で低くなつているが、両者の土地の間には、四角コンクリート製パネルの敷きつめられた緩斜面があつて、これにより両者の土地が接続されていて、人が相互に往来することが可能な状態である。また、右建物の間の路地は、それぞれ、幅1.2メートル、0.9メートル、4.5メートルのものがあり、ほとんどの場所に棚等の設置がされておらず、一般の通行のための道路ではないものの、ここを通つて人がかなり自由に前記区道と管理用通路との間を往来することができる状況になつている。そして、前記区道と管理用通路は前記永代橋付近の公共用階段付近において接続していて、ここで人が区道から管理用通路に立入ることができる状況になつている。」

3  二一丁表二行目末尾の後に、次のとおり付加する。

「しかし、人が右区道を同所付近で東側から西側に徒歩で横断し、前記路地を通つて管理用通路に至ることが不可能な状況ではなかつた。」

4  二一丁表九行目の「前掲乙第一号証の九」の前に「前項に認定の事実並びに」を付加し、二四丁裏一行目末尾の後に、次のとおり付加する。

「本件事故現場付近から上流方向及び下流方向にそれぞれほぼ一〇〇メートルないし一五〇メートルの地点(永代橋付近及び油堀川水門付近)に前記の公共用階段があり、これを利用して右河川水面から陸地へ出入りすることはできるものの、右ハシケ業者らがその業務を行うため本件事故現場付近の河川水面から陸地へ出入りするには本件事故現場付近の河川水面から右公共用階段に至るため、前記水際のフーチング上を一〇〇メートルないし一五〇メートルにわたり歩行しなければならないが、フーチングは満潮時には水面下に没するため、これを利用することは実際上は不可能であり、また、本件事故現場付近の河川水面から護岸外側を経てその天端に昇り、次いで護岸内側を経て管理用通路に至る方法も、護岸外側がフーチング上端から護岸天端まで4.10メートルにわたり垂直に近い急勾配であり、護岸内側も天端から管理用通路面まで1.87メートルにわたり垂直状であるため、護岸の外側及び内側にハシゴを設置しなければ、実際上不可能であつた。本件事故現場付近の河川水面から護岸外側を経て天端に昇り、ここを歩行して前記公共用階段に至ることも、右天端が河川水面から4.90メートル、管理用通路面から1.87メートルの高さにあるうえ、天端の幅が0.60メートルに過ぎないところから、これを歩行することは危険なため、実際上不可能であつた。かような事情にあつたため、上記のような鉄製ハシゴ及び木製ハシゴの設定を黙認していたものと推認される。」

5  〈省略〉

6 二九丁表三、四行目の「管理上の措置を講ずべき義務があるというべきである。」の後に、次のとおり付加する。

「もとより国家賠償法二条一項にいう営造物の設置又は管理に瑕疵があつたとみられるかどうかは、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況など諸般の事情を総合考慮して、具体的、個別的に判断すべきものであるところ、本件護岸は隅田川流水の一般的利水の増進又は公害の除去、軽減のために設けられたものであり、本件管理用通路は右隅田川の管理、監視・業務や水防活動、護岸の補強工事のために設けられたものであり、これらは一般の利用、通行に供されるためのものではなく、また、本件木製ハシゴ及び鉄製ハシゴは前記ハシケ業者が係船場と陸地との間の出入りのために設置したものであつて、やはり一般の利用、通行の用に供されたものではなく、これらはその構造、用法自体に安全性の欠如が存するということはできない。しかしながら、本件管理用通路は事実上付近に居住する子供達にとつて格好の遊び場所となつていたのであり、本件護岸に本件木製ハシゴ及び鉄製ハシゴが設置されてから後は、右子供達がこれを利用して隅田川の水際に至りフーチング等の上で遊んでいるうちに誤つて水中に転落し、事情によつては死亡するという事故を惹起する危険が生じ、かつ、これを予見することが可能であつたということができるから、これらの事情から見ると、本件護岸に立てかけられた本件木製ハシゴを放置させることは、本件護岸の管理として安全性を欠如した瑕疵があるものといわざるを得ない。」

7 三一丁表四行目冒頭から三二丁表四行目末尾までを次のとおり改める。

「しかしながら、訴外東京都知事は、訴外港運協会に対し本件ハシケ係留場の新築を許可し、かつ、その構成員たるハシケ業者においてその利用上本件木製ハシゴ及び鉄製ハシゴを設置するのをやむを得ないものとして黙認した以上は、これらの設置によつて生じ、かつ、予見し得べき前記危険を防止するために、例えば前記公共用階段の存する個所にみられるような防護柵を設置して、ハシケ業者以外の者が木製ハシゴに接近、利用し、もしくは護岸天端に登ることができないようにし、又はハシケ業者が木製ハシゴを利用する朝夕のほぼ決まつた時間帯に必ず担当者を巡視させる等して本件護岸に存する前記危険の現実化を防止するため適切な措置を講ずべきものである。しかるに、訴外東京都知事は単に訴外港運協会に対し木製ハシゴの利用時以外の取外しの励行を指導・注意したり、数少い巡視をしたにとどまり、その管理を訴外港運協会又はハシケ業者任せにし、右木製ハシゴの取外しが励行されず、護岸の安全の実効を期し難いことに気付きながら、それ以上の措置を講じないで放置していたことは前示認定のとおりであるから、訴外東京都知事の講じた措置は甚だ不十分であつたというほかはなく、結局、訴外東京都知事の本件護岸の管理に瑕疵があつたものというべきである。」

8  三二丁裏三、四行目の「性質のものではないから、」とあるのを、「性質のものではない。しかも、本件事故は訴外大輔がフーチング上から水中に転落したことにその直接の原因があるのではあるが、前示認定のような状況のもとにおいて、子供がフーチングに降りることによつて本件のような転落死亡事故を惹起する可能性があるから、木製ハシゴ及び鉄製ハシゴの設定を黙認しながら格別の措置を講じなかつたことと本件事故との間の相当因果関係を否定することはできない。従つて、」と訂正する。

9  三三丁表八行目の「償与」とあるのを「賞与」と改める。

10  三四丁表四行目の「原告高橋雪子こと呉雪子」とあるのを、「第一審原告高橋雪子」と改める。

11  三五丁裏九行目末尾の後に、次のとおり付加する。

「訴外大輔の右行動は子供の行動として自然であり、予想し得ないものではないことは前叙のとおりであるが、このことから訴外大輔に抽象的過失がなかつたものと断ずることはできない。過失相殺の問題は損害賠償額を定めるにつき、公平の見地から損害発生についての被害者の不注意をいかに斟酌するかの問題にすぎないのである。」

二したがつて、第一審原告らの本訴請求は右認定の限度において理由があり、その余の部分(当審において拡張した請求を含む)は失当であるから、右限度において請求を認容しその余を棄却した原判決は相当であり、本件各控訴及び第一審原告らが当審において拡張した請求はいずれも理由がない。

よつて、民訴法三八四条一項により本件各控訴を棄却し、第一審原告らの当審において拡張した請求を棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(岡垣學 磯部喬 大塚一郎)

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